株式の私設取引システム(PTS: Proprietary Trading System)は、証券取引所を経由しないで株式の売買を行える電子取引市場です。
PTS取引は夜間取引とも言われ、日中取引する暇がない方も帰宅後に株の売買が可能になります。
しかし実際には、夜間取引だけでなくデイタイム・セッションといって昼間もPTS取引に対応しています。
夜間だけでなく、深夜や東証が始まる前の時間帯の取引もできます。
PTSは従来の取引所取引を補完し、投資家に新たな取引機会を提供しているといえるでしょう。
売り手と買い手でリアルタイムに株取引ができるのは、取引所もPTSも同じです。
この記事では、PTSについての詳細、メリットやデメリット、どのようにPTSで取引を行うかを解説しています。
PTSに興味がある方だけでなく、現在仕事で昼間の取引が難しい方にもおすすめの記事となっています。
PTS取引の仕組み
株式の私設取引システム(PTS)は、証券会社が独自に運営する取引所といってよいでしょう。
かつては上場株式の注文は必ず証券取引所につなぐ義務がありましたが、1998年にその義務がなくなりPTSが導入されるようになりました。
PTS取引の流れ
PTSでの取引の流れは、基本的に取引所での注文と同じです。
これまでの夜間の株取引注文とは異なり、PTS取引ならリアルタイムで注文を完了できます。
まず、投資したい方はPTSサービスを提供している証券会社で口座を開設します。
すでに証券口座を持っていて、その証券口座がPTS取引に対応しているなら、新たに口座を開設する必要はありません。
オンラインでの口座開設なら、松井証券は即日開設も可能ですし、SBI証券、楽天証券も最短翌営業日に口座開設できます。
口座開設ができれば、投資資金の入金を行い、注文へと進みます。
投資家は注文可能時間に、取引を希望する銘柄と、価格を指定して注文を出します。
夜間取引では成り行き注文が指定できず、すべて指値注文で発注します。
売却したい場合は、売却したい銘柄を売り注文します。
PTSは、注文を他の投資家の注文とマッチングさせ、条件が合致した場合に取引を成立させるシステムです。
PTS取引の特徴
PTSの最大の特徴は、株式市場の取引時間外にもリアルタイムで売買できる点でしょう。
決算発表後の当日中に売買できるため、たとえば翌日の市場の株価上昇を見込んでいち早く購入しておくといったことも可能です。
二つめの特徴は、PTSは1円刻みで注文できるので、細かい株価で取引でき東証より有利な価格で売買できる可能性もある点があげられます。
最後にPTSは夜間以外にも取引できる点を活用し、東証よりも高い株価で売れそうなら、SOR注文を利用しておけば自動的にPTSで売却されます。
PTS市場は現在2種類
日本で存在するPTSは、ジャパンネクストPTS(SBIジャパンネクスト証券運営)とCboePTS(Cboeジャパン運営)の2つです。
夜間取引ができるSBI証券、楽天証券、松井証券は2つのいずれかに接続してPTS取引を行っています。
楽天証券は、ジャパンネクストPTS、CboePTSのいずれも利用でき、SBI証券と松井証券はジャパンネクストPTSのみ利用可能です。
二つのPTSの取引時間
ジャパンネクストPTSとCboe(チャイエックス)PTSの取引時間はそれぞれ以下の通りです。
- ジャパンネクストPTS 8:20~16:00、16:30~翌6:00
- Cboe(チャイエックス)PTS 8:20~16:00
つまり、夜間取引ができるのはジャパンネクストPTSのみということになります。
ただし夜間PTSができる証券会社の3社は、いずれもジャパンネクストPTSに接続できるので問題ありません。
営業日は東京証券取引所と同じです。
手数料を抑えて売買したいとき
PTSをこれから口座開設して行うなら、どこの証券会社を選ぶとよいのでしょうか。
手数料をとにかく抑えたい、取引回数が多いといった方なら、夜間PTSの手数料が無料になるSBI証券がおすすめです。
また楽天証券は国内株式手数料の手数料体系が適用され、一切追加手数料はかかりません。
PTSの取引と取引所での取引の違い
PTS取引は、取引所での取引に比べて呼び値の単位が小さく、細かい注文ができます。
PTSは夜間取引だけと思っている方も多いのですが、デイタイムに取引も可能です。
むしろ、取引所での取引が限定された時間帯のみ可能と考えておきましょう。
また、取引手数料を取引所取引より低く設定しているPTSは多いので、できるだけ手数料を抑えたい時にもPTSは有利といえるでしょう。
PTS取引ができる証券会社
現在PTS取引ができる代表的な証券会社は、SBI証券、楽天証券、松井証券があります。
マネックス証券とauカブコム証券などもPTSサービスは利用できますが、夜間取引には対応していません。
マネックス証券とauカブコム証券の二社は日中にSOR取引を利用する際に、PTSが利用できるようになっています。
そのため、夜間取引をしたい場合には、SBI証券、楽天証券、松井証券から選びましょう。
PTS取引を行うメリット
株式の私設取引システム(PTS)は、取引所取引とは異なるメリットをもたらします。
夜間のリアルタイム取引がPTSの最大のメリットではありますが、他のメリットも投資をしたい方にとってトライする価値は十分にあると言ってよいでしょう。
取引時間の拡大により夜間のニュースや決算情報に対応可
PTSの最大のメリットは、取引時間の大幅な拡大です。
アメリカやヨーロッパの経済指標などは、日本時間の夕方から夜にかけて発表されることが多いです。
経済指標の結果が日本の株式市場に影響を与えることがありますが、PTSなら翌朝の相場が大きく動く前に取引もできます。
通常の東京証券取引所の取引時間は平日の9:00から15:00までですが、PTSならこの時間外でも取引が可能となるためです
証券会社によってPTSに対応している時間は多少異なるものの、東証の時間外である平日の夜間や早朝にも取引ができます。
例えば、日本時間の夕方から夜にかけて発表されるアメリカやヨーロッパの経済指標は、日本の市場に影響を与えると考えられます。
PTSであれば、翌朝を待たずに相場が動く前の取引も可能になるのです。
取引手数料が取引所取引よりも安い
PTS取引は、取引所取引よりも手数料を低くしている証券会社も多いです。
手数料の低さは投資効率の向上に直結しますので、利幅を大きくしたい方には重要な点となるでしょう。
コスト削減のメリットは、頻繁に取引を行う投資家や大口の取引を行う投資家にとって特に顕著です。
たとえばSBI証券なら、昼間の取引は取引所取引よりPTS取引のほうが5%程度低く、夜間取引は手数料がかかりません。
PTS取引は信用取引ができる
PTSなら信用取引が可能です。
信用取引とは、預けた資金(委託保証金)の最大3倍までレバレッジをかけて取引できるというものです。
信用取引のためには信用口座が必要ですが、元手が少ない点が気になっている方にも大きなリターンが期待できるでしょう。
ただしPTSでの信用取引の取引時間は、限定的で夜間取引には対応していません。
取引所取引より有利な価格での約定
取引所取引では、株価の高い銘柄は5円刻みや10円刻みでしか注文を出せません。
PTS取引では、呼び値は取引所取引の10分の1以下となっているため、取引所取引より有利な価格で約定する可能性があります。
たとえば、0.1円単位で買い注文を出せる銘柄もあり、細かく注文を出せます。
PTSの気になるデメリット
株式の私設取引システム(PTS)には多くのメリットがある一方で、デメリットも存在します。
PTSのデメリットを十分に理解した上で、自身の投資戦略に合わせてPTSで取引を行いましょう。
取引量が少なく売買が成立しにくい
PTSは取引所と比較すると、投資家数が限られているため、全体的な取引量が少なく売買が成立しにくい傾向があります。
株を売りたい人がいても、買う人がいない限り売買は成立しません。
買い注文を入れても売ってくれる人がいない、売りたいのに買ってくれる人がいない状況がPTSでは生まれやすいといわれています。
対応している証券会社は少ない
夜間も取引できるPTSに対応している証券会社は、SBI証券、松井証券、楽天証券の3社のみです。
現在、他の証券会社で取引所取引を行っているなら、PTS取引のために3社いずれかで口座開設をしないといけません。
選択肢があまり多くないので、手数料や取引対応時間、取り扱い銘柄などはしっかり比較してから選びましょう。
ツールやアプリの使い勝手も確認しておくと完璧です。
PTS取引できる銘柄は限定的
PTSで取引できる銘柄は、東証のプライム市場、スタンダード市場、グロース市場に上場しているものです。
また各証券会社がPTS取引できる銘柄を指定しているので、そのうちから選ぶ必要があります。
大阪や名古屋など地方の取引所にのみ上場している銘柄や、外国ETFなどは取引対象外となっていることが多いためご注意ください。
PTSの取引方法
PTSでの取引方法は、通常の証券取引所での取引と似ていますが、いくつかの特徴があります。
取引所取引を行っている方は、違いを把握しておきましょう。
PTS取引を始める方法
PTSを利用するには、まずPTSサービスを提供している証券会社で口座を開設しましょう。
すでにPTS取引できる証券会社で口座をお持ちの場合は、PTSの取引方法を確認します。
たとえば楽天証券ではすでに口座を持っていれば、特別な申し込みや手続き不要ですぐにPTS取引が開始可能です。
口座開設が完了すれば入金し、各証券会社でのPTS取引の方法に従って注文を行います。
基本的に取引画面を表示し、PTS注文を選ぶ、あるいは市場を選ぶと通常の取引と同様の方法で操作可能です。
ツールや機能の使いやすさによって、証券会社を選んで口座を開設するのも一つの方法です。
PTS取引ツールの使い方
各証券会社により、PTS取引で利用できるツールは異なりますので、ご自分が口座を持っている証券会社でツールの使い方を十分に把握してから取引を開始しましょう。
まず、取引ツールにログインしたら、ホーム画面の構成を確認します。
PTS取引で注文する場合には、どの画面から進めばよいのかチェックしておくとよいでしょう。
証券会社によってツールの対応状況、どの画面で注文ができるか、注文の訂正/取消などが決まっています。
発注先市場をよく確認のうえ、注文しましょう。
PTS取引ができる取引時間
PTSの大きな特徴の一つは、従来の取引所よりも長い取引時間です。
PTSでは、通常の取引所が閉まっている夜間や朝でも取引できます。
PTSは夜間取引だけと思っている方も多いのですが、昼間にも取引できるようになっています。
PTS取引時間の詳細
PTSの取引時間は、各証券会社により決まっています。
昼間取引 | 夜間取引 | 注意事項 | |
SBI証券 | 8:20~16:00 | 16:30~23:59 | 夜間取引はJ-Marketのみ |
楽天証券 | 8:20~16:00 | 17:00~23:59 | SOR注文は東証の立会時間のみ |
松井証券 | 8:20~15:30 | 17:00~26:00 |
PTS夜間取引(JNX)では、16:30~翌朝6:00までが取引可能時間となっていますが、SBI証券と楽天証券では23:59までの取引となっています。
PTS夜間取引を最も早く始められるのはSBI証券で、夜間最も遅い時間まで取引できるのは、松井証券です。
仕事の時間帯や、取引しやすい時間帯によって証券会社を比較しましょう。
PTS夜間取引の概要
株式の私設取引システム(PTS)における夜間取引は、東証が閉まる15時以降の状況を見た後の取引や海外市場の状況を見ながら取引できます。
現在、証券会社でもPTS取引量は増加しつつあり、ますます注目が集まっています。
特に昼間にリアルタイムで取引できない方にとって、PTSはおすすめの取引方法です。
ただし取引参加者は、取引所取引と比較すると限定的なため、流動性が低く値動きが大きくなる可能性がある点に注意が必要でしょう。
いきなりPTS取引を開始するよりも、取引所取引での経験や知識を基にPTSで取引することをおすすめします。
PTS取引での注文の種類と特徴
PTS取引では、各証券会社が以下の通り注文の種類を決めています。
SBI証券:指値注文のみ
成行、執行条件付、逆指値注文は不可。セッション限りの注文も不可
楽天証券:指値注文のみ
成行、逆指値注文、逆指値通常注文は不可
松井証券:指値注文のみ
成行不可
PTS取引では、各証券会社は指値注文のみとしています。
通常の取引所取引での注文方法には、指値注文、成行注文、IOC注文(Immediate or Cancel)などがありますが、PTSでは指値注文に限定されていますのでご注意ください。
指値注文は、投資家が希望する価格を指定して注文を出す方法で、成立価格のコントロールが可能です。
成行注文のようにすぐに売買できるわけではないため、注文機会を逃してしまうリスクがある点に注意しましょう。
注文の種類の少なさで注意したい点
基本的に指値注文は、希望した価格で購入できるのがメリットです。
しかしPTSでできる注文の種類が少ないということは、希望での価格取引が成立しにくい可能性が高いと考えておきましょう。
PTS取引には個人投資家がメインで参加しているため、取引量が少なければ約定できません。
また機関投資家が参入しにくいので、PTSでの株価は参考にするのが難しい点にも気を付けたほうがよいでしょう。
PTS取引の注意点と戦略
PTSで取引する際は、いくつかの注意点を押さえておく必要があります。
PTSの流動性の低さや、手数料は低めでも各社の設定、注文方法が限定されていることを理解しておきましょう。
PTS取引前のチェックリスト
株式の私設取引システム(PTS)で取引を行う前に、以下のチェックリストを確認することをおすすめします。
①銘柄を確認
まず、取引を行う銘柄がPTSで取り扱われているかを確認します。
全ての上場銘柄がPTSで取引可能とは限らないため、事前の確認が必要です。
またPTS売買の停止や制限銘柄が当日付けで発表されています。
取引の前に必ずチェックしておきましょう。
②取引時間の確認
次に、PTSの取引時間を確認します。
取引所と異なり、PTSは夜間や朝も取引可能ですが、時間帯によって流動性が大きく異なる場合があります。
各証券会社で夕方の開始時間が異なり、また夜間の最終取引時間も違っています。
③取引手数料を確認
PTSの手数料体系を確認することも重要です。
PTSによっては取引所よりも手数料が安い場合があります。
たとえばSBI証券では、ゼロ革命といって条件を満たした国内株式取引(現物・信用)の取引手数料が無料化されています。
条件未達成でも、インターネットコースのインターネット取引でのナイトタイムセッション(夜間取引)は、国内株式取引手数料は0円です。
※デイタイムセッションでは手数料が発生します。
④PTSの板情報を確認
PTSの板情報(売り買いの注文状況)を確認し、流動性を把握します。
板が薄い場合は、大口の注文を出す際に注意が必要です。
各証券会社では、株価検索や市場の登録等によりすぐに板情報を確認できるようになっていますので、必ず確かめておきましょう。
PTS取引成功のための戦略
PTSを活用して成功するための戦略には、PTSの傾向をしっかりと把握する必要があります。
PTSは取引所取引と同じような売買スタイルですが、出来高は少ないため思ったような価格での売買は成立しにくいのです。
決算発表での好材料や悪材料によって、需給が極端に偏ってしまい、出来高が少ないのにストップ高まで買われる、逆にストップ安まで売られることがあります。
株価が上がり過ぎたり、逆に下がり過ぎたりするのはデメリットと感じやすいのですが、逆手にとって売買していくと成功につながるでしょう。
好材料の出た保有株を高値で売り抜く、割安成長株を安値で買えるといったこともPTSならではです。
取引所取引での売買を基本と考えて、自分がどのように購入したいのか、あるいは売却したいのかを考えるとPTSは利用価値が高いといえるでしょう。
手間やこまめなテクニックは必要ですが、PTSの弱点といわれる点が明らかになっているため、反対に利用しやすいとも考えられます。
PTS取引におけるリスク管理の方法
PTS取引でのリスク管理について見ておきましょう。
PTS取引では、東京証券取引所が開いている時間帯であれば、楽天証券などではSOR有効が利用できます。
SOR有効とは、もっとも有利な価格で約定できる場所を自動選択できる機能です。
少しでも高く売り、安く買うための機会を逃しません。
取引所取引と同様に、リスク管理には、取引量の管理が重要です。
大口注文を複数の小口注文に分割して執行する「分割注文」を活用するなどで対策しましょう。
PTSでは逆指値注文はできませんので、損失が発生してきたときには十分な注意が必要です。
日本でのPTS市場の実状
PTS取引は、夜間にもリアルタイムで売買でき、手数料も低いメリットがあるものの日本ではあまり活性化されていないと言われています。
PTS市場の背景
登場時にはいくつかあったPTS市場も現在では2つとなっています。
またPTSを取引を行う投資家も増えてはいるものの、メリットの多さと比較するとまだまだ参入する投資家が少ない状態です。
2020年10月に東証システムにトラブルが起こり、取引ができない問題が発生した際に、PTSは東証の代替となるはずでしたが、積極的な売買にはいたっていません。
PTSへの今後の期待は集まっている
東証システムトラブルをきっかけに、PTSを活用するための育成の流れも出てきています。
投資チャンスや、リアルタイムでの取引を増やしたい方には、PTSは今すぐに始められる効果的な取引といえるでしょう。
PTS取引でよくあるQ&A
PTS取引をこれからスタートしたい方が気になる点をまとめてみました。
PTSで買ったらPTSでしか売れないの?
PTSで買った銘柄も、もちろん取引所で売却できます。
また取引所で買付した銘柄は、PTSでの売却も可能です。
ただしPTSで売却できるのは、PTS取扱い銘柄のみとなります。
PTSで買った株はどうなる?
PTSでは前営業日に開始された夜間取引(ナイトタイム・セッション)から当日の昼間取引(デイタイム・セッション)の終了までが同一の「取引」となります。
デイタイム・セッションの終了時に取引日が切り替わりますので、その日のナイトタイム・セッションは翌営業日です。
ナイトタイム・セッションでは信用取引はできませんので、昼間に売却することになります。
PTSの株価の確認方法は?
PTSの株価は各証券会社ツールやアプリでの確認に対応しています。
画面等で株価確認や発注ができない場合もありますので、使用するツールを必ず確認しておきましょう。
またジャパンネクスト証券のJ-Market公式サイトでもナイトタイム・セッションでの株価を確認可能です。
PTS取引に関するまとめ
PTS取引は、昼間リアルタイムで取引するのが難しい方、ずっとマーケットに張り付いているのが難しい方にもおすすめの方法です。
PTSの取引手数料の安さや、海外市場のニュースや決算情報にすぐ対応できる点は大きなメリットといえるでしょう。
ただし、取引量は多くないため注文の約定が難しい場合や、取引可能銘柄が限定的なこともある点には注意が必要です。
取扱いのある大手ネット証券なら手軽にPTSをスタートできますので、メリット・デメリットを把握したうえで取引を開始するとよいでしょう。